第十席 人間の野生性
筆者が最近、考えさせられた事の一つに、 「人間の野生性」 という事柄があります。 筆者も会社員として、現在ではその様な事は見受けられませんが、
かつて、早朝から深夜まで、土日の休日も返上して数ヶ月に渡り働き 続け、体調を崩してしまう人間を目の当たりにした事があります。 そこで、崩した体調を戻すために、どうすれば良いのかを考え、リズム
の崩れた生活をする事で体調が崩れるのだから、当り前の、リズムの ある生活をする事が必要と考えました。しかし、「当り前の生活」とは、 改めて考えるとどの様なものであるか、取り戻すのは大変な作業です。
まず、大切なのは、「自然な睡眠」です。運動をすれば、自然な睡眠は 得られるものと考えますが、更に、書籍にある「全身の力を抜く方法」が 大変役立つものと考えます。これは、足先から、意識を掛けて順々に力
を抜いて行く、というものです。 運動については、何と言っても「正しい姿勢」が大切です。ここを決め て、脚腰の鍛錬を行います。吉丸先生にお教え頂いた鍛錬法で、公開
されているものとして、「四股」があります。「四股」で鍛錬して頂くのも 良いですし、「脚はどんな運動で鍛えても良い。」というお教えです から、ご自分に合った、無理のない鍛錬をされれば良いと考えます。
「多忙な状況」にあるとき、身体は一種「興奮状態」にあり、筋肉も 縮んで固くなっているものです。その為、日常、腹式呼吸を意識して 行います。順腹式呼吸と謂われる呼吸法で、お腹を膨らませて吸い、
お腹をへこませて、長く吐きます。長く吐く事で、身体はリラックス状態 になります。まして、この呼吸法は、オフィスでも、通勤電車でも、行う事 が出来るという、優れたものです。
「多忙な状況」にあるとき、知らず知らずのうちに背中を丸めて みたり、長時間同じ体勢を取っている場合が有り、この様なとき、筋肉 は緊張状態になっており、酷くなると「超働状態」に陥ります。これを 解すために、伸張運動により腕や脚を充分に伸ばします。この動作 には、腹式呼吸を伴わせます。 こういった運動以外にも、「運動以前の運動」を伴わせます。当たり前 すぎて、誰もが意識的には行っていない事柄なのではないでしょうか。 それは、「緊張状態にある環境」から心身を解放する為に、「自然環境」 に身を置く、という事です。疲弊している人は、例えば「オフィスの蛍光 灯や、窓からの光が今までよりも眩しく感じる、これまでとは違う感じ がする。」と話す事があります。まず、充分に休息をとり、これまでの 環境とは違う、「自然環境」に身を置き、自らを開放してみます。風を 感じ、草木や花の息吹を吸い込み、鳥の囁きに耳を傾け、空の深さを 見上げ、自然のリズムに心身を合わせ、自らのリズムを取り戻します。 人に依っては、ここ何日も空を見上げていない、という方もあります。 是非、周囲の状況に注意して、空を見上げてみましょう。これだけでも、 身体の前面は伸びるものです。 そして、人間の五感は、自然環境にあるとき、無意識のうちにも研ぎ 澄まされます。これは、大切な事なのです。 さて、疲労状態にある人に対して、突然、荷重のある運動を強いる事 は逆効果でしょうから、負担の少ない運動方法を採用する事となりま す。これまでの要素を含んだ運動とは、どの様なものでしょう。実は、 大変身近にあります。身近すぎて、誰もが意識されないで行っておられ る可能性があります。
それは、「歩幅を広くした歩行」です。 最も望ましいのは、毎朝、自然環境のなか、そばで、20~30分行う事 です。ここで、「歩幅を広く」とは、ただ大股で歩く事も良いと考えます が、武術的には、「足先を意識して、脚を伸ばす」という事です。 運動ですから、ゆったりした腹式呼吸という点は少し弱いのですが、 そこは歩く前後に行って、補います。往き道は歩幅を広くして、帰り道は ゆったり景観を楽しみながら、という事で良いでしょう。交通安全に注意 して、楽しく無理なく行いましょう。 さらにもう一つ、これらの要素を含んだ運動が身近にあります。大人 になる事で忘れてしまった事です。それは、多くの方が学生の時分、 普通に行っていた、「外遊び」です。 夢中になって、時の過ぎる事も忘れて、ボールや、おもちゃや、何かを ただひたすらに追いかけていた事です。そのとき、あなたの五感は、 最高に研ぎ澄まされていた筈です。自然の中で、思いっきり身体を使っ て、最高のパフォーマンスを発揮する、そして、最も大切な要素の一つ、 「心は『楽しむ』状態」にあったのではないでしょうか。そして、陽が暮れ ればおいしいごはんをたっぷりと食べ、眠くなったら寝ていた筈です。 そして、陽が昇れば起床して、また一日を思いっきり過ごすのです。 翻って考えると、疲弊状態に陥るとは、この生活とは離れた生活を する事が原因の一つではないでしょうか。と、考えますと、学生は、上記 の様な生活を日々送ることが、一つの、「将来の礎」になるとも謂え ます。そこで、 「学生は、ゲームはやらないべきである。」とまでは申しませんが、 「ゲームは1日何分と決め、それ以上はやらない。」べきです。身体と 五感を使っての遊びこそが基礎となるのであって、学校でも、公園で も、充分に安全を確保して、楽しく「外遊び」をして欲しいものです。 そして、
「自然環境に身を置く」、「自然環境から刺激を受ける」事で、リズムが 調う、五感が磨かれる、という事であれば、やはり人間は、「野生動物」 の一つである、という考えに達する事となります。 「野生動物」は、自然環境のなかにあって、最高のパフォーマンスを 発揮します。それは、自然治癒力も含めての事です。 もちろん、人間は病に罹ってしまったら、罹ったかなと感じれば、すぐ に病院へ行くべきです。 ただ、その予防も含めて、「野生」を取り戻さなければならない、という 部分もあります。無理のない範囲で、1日のうち20~30分でも、自然 環境に身を置く事を、また、当HPの「ネット道場」で申し述べます、 「簡易運動」を、採り入れられてはいかがでしょうか。 (第十席 了) 【追記】 世の中には大変にエネルギッシュで、多少の無理も平気、という人が 存在します。ただ、その様な方と倶に作業する場合、例えば、 「ハイキング」で考えた場合、その人が「私に付いてこい。」と先頭に 立って歩くとき、その人には普通のペースでも、後を歩く人は、その人 のペースに合わせて歩かされている訳で、自分のペースではありませ ん。ですから、同じ時間、同じ距離を歩いても、疲労の度合いが違いま すし、「組織」で考える場合、「先頭に立って歩く人」は多くの場合は 「管理・監督者」であり、先頭に立ち引っ張る事で何かを得る事が出来 る立場にあり、後を歩く人は、同じように何かを得る事が出来るのか どうかは不明で、嫌々付いていく事で、精神的にも疲労を蓄積させて いるかも知れません。組織において、「先頭に立って歩く者」の資質が 問われる、一つの事象ではないでしょうか。
相顕舎の庵 第十席 了