第三席
品川体育館で稽古をしていた、大崎時代で特に想い出深いのが、 転掌と三戦の稽古です。
転掌(てんしょう)と三戦(さんちん)は、剛柔流空手道の型で、 まず、吉丸先生が手本を示して下さるのですが、
先生の道衣が 立てる、生木を裂く様な「グシャッ」という音と、呼吸法の特殊さ に驚かされたものです。
T副師範と、筆者が並んで鍛錬するのですが、その間、吉丸先生 が肩・背・脚と、びしっ、びしっと叩いて下さり、
これに依りどの 筋肉を使用するのか学習する、との事でした。
吉丸先生の御教授 下さる技術は、一言で表すならば「精妙」という言葉である、 というのが当初の感想です。筆者レベルでは、
「力を入れる」と 教われば、とにかく重量物を挙げてみたりして、いわゆる 「力こぶ」を太くし、これで強くした力を「入れる」のだ、
という 認識でしたが、「どうも、そういったものではないらしい。」と感じるのに、 それ程、稽古回数を費やすことはありませんでした。
とはいえ、 「力(チカラ)」という事であれば、「力(チカラ)」「力を入れる」 「力を抜く」「発気法」「発力法」と当時もいろいろな
言葉があって、 もちろんそれぞれ異なる技術を意味するものですが、愚鈍な筆者は 随分と混乱したものです。
現在、考えますと、大崎時代の稽古とは、この、一言で言う所の 「力(チカラ)」には種類があって、これを認識させるためのもので あった、
とも謂えるでしょう。
吉丸先生は御教授下さっているの ですが、愚鈍な筆者は認識に至らなかった、という事です。 稽古では、まず、背筋を伸ばすことを徹底して教わります。
次に 肘の使い方を教えて頂き、これが出来る様になると、背筋の使い方を教えて頂けるのですが、これは、初めに教えて頂く「背筋を伸ばす」 事が
出来ていないと、教えて頂いても出来ないものだそうです。 背筋の使い方も数種類あって、これも同様です。脚の使い方は、 「使用する筋肉」と
「その鍛錬方法」が重要となりますが、まず 有名な鍛錬方法は、四股と蹲踞(そんきょ)でしょう。それ以外の 鍛錬方法については、筆者の識る限りにおいては
公開されていないため、ここでは触れません。それから「脚の使い方」を御教授頂く こととなります。
全体として重要なのは「リキまない事」との事で、 こちらも御教授頂けたのですが、それでも筆者はいつも、「下手」と 言われておりましたし、自分でも、
「吉丸先生の様には絶対に出来ない、 吉丸先生は絶対に特別な方なのだ」と稽古の度に想っておりました。 今現在でも、この想いは全く変わっておりません。
ひとつだけ、「下手」と言われていた理由については、後々の 浦和時代に、筆者の下手さに呆れられたのか、吉丸先生から、 「君、伸ばす伸ばすって、
ここを伸ばすって事なんだけどね。」と 一言御教授頂いた事があって、そこで全くそれまでの認識を改める 事となったのですが、その際、
「ああ、大崎時代は教えて頂いたとおりの かたちを真似しようとしていたから無駄な力み(リキみ)があったのだな、 だから上手く出来なかったんだな。」と、
一点、想い到ったものです。 その他の大切な点については、触れておりませんが、この席では、 「力(チカラ)と認識」という事について、
簡単に触れさせて頂きました。 次の席では、今回、若干綴らせて頂いております、「稽古教程と秘伝」 について、申し上げたいと考えております。
相顕舎の庵 第三席 了