第19席 「合気揚げ手」と武道修得法


 大東流合気柔術の代名詞となった感があります、「合気揚げ手」という技法につきましての、筆者の練成体験記です。

prologue 【前提事項2点です。】

1.「合気揚げ手」という技法につきましては、各派でいろいろな解釈や技術体系上での位置付けをお持ちかと存じますが、筆者は「どの解釈が正しい」「どの解釈が優れている」という事は、一切、申し上げるものでは御座居ません。

 これから申し上げますのは「筆者の修行体験」を通してひとつの「武道修得法」を確認してみよう、という「試み」であって、「このやり方が正しいのだ。」といった様な主張では決してありません。

申し上げました通り修練をされる各派に其々解釈があり、「どの解釈が正しいのかや解釈の優劣」は判断がつく事では無い、というのが筆者の考えですので、初めにその点はご了承おき願います。

 併せまして、当HP冒頭でも述べさせて頂いております通り、筆者の「体験談」は、決して筆者の自慢話でも、立場の主張でも御座居ません。筆者は現在、「武道を通じての健康法探求」に軸足を置いておりますので、特段、武道界において立場を主張するものではありません。

「体験談」は同好の方々や次世代を担う方々の参考に資する為のものであり、それ故に成功談に加えて失敗談も詳らかに申し 上げている次第です。

2.この席で申し述べます吉丸師範よりお教え頂きました武道修得法につきましては、筆者自身は大変に優れた修得法と考えておりますし、他の武道でも同様の修得方法を採り入れられている流派も見受けられる様です。

 ただ、修得法につきましては、やはり各派の目的や伝統により優れた修得法を確立されているものであり、また、競技が違えばその競技の修得法も、当然に自ずと違うものです。さらにお弟子さん、選手の個性に合わせてアレンジする場合を考えますと、修得法も「これが絶対に正しい修得法」といえるものは中々、存在するものでは無いようです。そのため、お教え頂きました修得法につきましても「すべての競技に通じる絶対的な修得法」と、主張するものではございません。

 器具を使用して筋力アップを図り、スピードを乗せた反復練習と身体の各部位に負荷を懸けて鋼の肉体を創り上げる練習方法も、技や身体動作の質を変える為に指先にまで神経を尖らせ、ゆっくりと動作を確認しながら反復練習する事で動作を身体に憶え込ませる練習方法も、目的によっていずれも正しい修得方法であり、後者の修得方法を体験した筆者の体験談を、筆者の拙い文章で提示する事で、各位の参考にしていただければ、という目的の基での「体験談」でございます。


 以上の2点につきましては、どうぞ誤解の無い様、お願い申し上げます。


chapter1 身体動作の変更を目的とした、ひとつの「武道修得法」とそのポイント

吉丸先生に御教授頂きました武道修得方法につきまして、ポイントを申し上げます。(以下、「」内は筆者の記憶も含めまして、可能な限りお教え頂いた際のお言葉を再現させて頂いた積りです。うまくお伝え出来ていない場合は、筆者の文才の無さに因るものですので、ご了承おき願います。)


〇二通りの武道修得方法について
「ひとつに、初心者の頃にまだ未熟である、という事を踏まえながら、ある程度の事を教えて、修練過程での本人の「気付き」に任せる方法、もうひとつに一つの技・型の修得を徹底的に行い、ある程度まで練成したところで、次の術理を教える方法がある。

後者の方法を採ると、技は速く上達する。
ただ、一つの技・型の術理を教え、熟達する前に速く上手くなってもらおうとその先の先の術理を教えてしまうと、一つの技・型は上手く出来る様には成るが、その先で伸び悩む場合が多い。」

〇武術に向き合う心持ち
「自分が学んだ武術に、『他の武術の技を採り入れよう』との考えで学ぶと、かえって修得出来ない。 『全く新しい武術を身につけよう』という気持ちで学ぶ事が大切。」

〇技を身につける
「「型」はその流派の、技術・技法についての「認識」で、「技」は「型」を繰り返すことによって身につく。武道に限らず、芸事の修行は   「型」を学ぶことから始まる。「技」を無意識に行うことが出来ることが、技芸の最高の境地。では技法が無意識的に出来るに至るには何回くらいその技法を繰り返さなければならないかというと、約3万回と言われる。」

〇急がば廻れ
「初心者と上手の自然体については、一見似ていても内容は全く違う。”自然”に立つ自然体に到達するためには、”不自然”に腰を落とす、徹底的に低く腰を落とす鍛錬を通して、”自然”に立つ事に至ったのが上手の自然体。

力を集中して使用したいから力を抜いた練習をする。
自由組手が目的ならば、まずは約束組手を練習する。
速い技を使うために、ゆっくりした練習を繰り返す。
目的に到達するには、目的のことを最初から練習しない。

将来、技を使えるようになるために今は何を学習するのか、「使用」と「学習」をはっきり区別する事も大切。」

〇ゆっくリズム稽古法
「その技法を行うについての注意事項すべて、いろいろな事に集中しなければならない段階では、どうしてもゆっくりとしか動けない。 これは「急速」に対しての「序速稽古法」という。

速いスピードで使うのが目的(使用)だから、ゆっくり練習する(学習)という事。」


〇武道の秘伝について
「『この技を教わったら、突然その時から天下無敵になる様な技』を、追い求めるべき『秘伝技』だ
と謂う人がいる。その様な『秘伝技』が存在するのかも知れないが、名人・達人が本当に『秘伝』として隠していたのは、技の上達法と 使用法(コツ)。」


それでは、その「武道修得法」は、「合気揚げ手」という技法修得に、どの様に顕れているのでしょう?
次章より追ってみましょう。


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